「ねぇ」とフレンズは君に語りかける ―ポップミュージックの深淵(フレンズ『ベビー誕生!』」に寄せて)

ベビー誕生!

 今回記事にするのは今話題のすごーい!のフレンズでもなく、口づけをかわした日はママの顔さえもみれななかったどこで壊れてしまったかわからないフレンズでもない。渋谷系ではなく「神泉系」を名乗るポップバンド「フレンズ」である。メンバーは以下の通り。

・おかもとえみ(Vo / 科楽特奏隊、ex.THEラブ人間)
・ひろせひろせ(Vo,Key / nicoten)
・三浦太郎(Gt,Cho / ex.HOLIDAYS OF SEVENTEEN)
・長島涼平(Ba / the telephones)
・関口塁(Dr / ex.The Mirraz)

 2010年前後の東京インディーをちょっとでも追っていた人は聞いた事のある名前がずらっと並んでいるのではないだろうか。インディーシーンを盛り上げていた彼(女)らが各バンドを脱退・解散・休止して結成したのが「フレンズ」である。

 2015年結成で月1回程度のライブ、楽曲は配信リリース・youtubeでのMV公開などで活動してきたバンドであるが、2017年4月5日に待望のフルアルバム『ベビー誕生!』をリリース。「夜にダンス」「Love,ya!」など配信リリースの曲がどれも最高だったので、期待値のハードルが非常に高くなっていたのにも関わらず、期待以上のド直球のポップなメロにお洒落なサウンド。かと思えば突然のRage Against the Machineのオマージュや、宮崎駿に対する愛を語った隠しトラックなど、随所にみられる遊び心も心地よい。

 ちなみに『ベビー誕生』というアルバムタイトルはアメリカドラマ「フレンズ」season1のサブタイトルからの引用である。ポップカルチャー万歳!

 収録曲の全て作詞はボーカルのおかもとえみ氏である。今回はフレンズの"ポップ"である強みを説明するためにアルバム収録曲の歌詞を何曲か引用してみよう。

ねぇあと何十回電話無視すりゃ気が済むの?
あなたにはわからないおしゃれしてるの!
もう何百回同じこと繰り返してるの
その度にハグで仲直りでいーじゃん
  フレンズ  ― 「塩と砂糖」

ねぇそんなことも言わせないでよ
ぼくはきみのこと
ねぇそんな顔は見せないでよ
少しは分かってくれるかな
  フレンズ ― 「夜明けのメモリー

Don’t Stop 夢の中まで
考えたくないのわかってよ ねぇ
君がもういなくても
終わらない毎日を過ごしていくの
  フレンズ ― 「DON’T STOP」

 勘の良い方ならお気づきだろうか。そう、この3曲には全て「ねぇ」という歌詞が入っているのだ。「ねぇ」と問いかけている相手は恋人であろう。しかも恐らく少しすれ違いが生じている恋人同士だ。そのすれ違いに気づいてほしい、分かって欲しいという思いが「ねぇ」という呼びかけの言葉にに込められているように感じる。
 今回のアルバムには収録されていないが、昨年リリースの2曲も引用しておこう。

ねぇこのままずっとさ
心地よい音楽に乗ってさ
EVERYBOBY say! グッドアンサー
danceing the night through the night
  フレンズ ― 「夜にダンス」

ねぇ あからさま
「このまま海まで連れてって」
ねぇ 君はまだ
隣でウトウト寝てるフリしてるの?
ねぇ あからさま
勇気出したのわかってる?
ねぇ 君だけに
伝えたいよこの気持ち 好きだよって
  フレンズ ― 「Love,ya!」

 今引用しただけでも、10数曲しか曲を出していないバンドの持ち曲およそ半分近くに「ねぇ」という歌詞が入っていることになる。ここまで来るとまさにあからさまなのである。

 「Suchmos」「Awesome City Club」「cero」。現代シティポップの旗手と言っても良いであろう三組を挙げてみたが、音楽性、ファッション、カルチャーなどどれを取っても洗練された都市性を持ち合わせており、憧れのシティポップアイコンとして機能している。  しかしフレンズはどうだろう。いつ聴いても「ねぇ」と語りかけてくれる。仲の良い旧来の友達のような。付き合って2年目で気が置けない恋人のような。いつ飲みに行っても180円のビールで迎えてくれる神泉の居酒屋すみれのような。そんな存在なのである。

 また、フレンズのライブでは曲中にコールアンドレスポンスができるような箇所が意識的にちりばめられていたり、曲間には振付の練習コーナーまである。アーティストがノリ方を教授するのこと自体について否定はしないが、少なくとも"イケてる"とは言い難いのではないか。これは間違いなくポップのダサさを逆手に取ってキャッチーさを演出している。PerfumeのPTAコーナーのような「みんなで参加して楽しもうよ!」というスタンスとは全く違う。意図的に”外し”ているのだ。
 しかし、クールで都会的なシティポップのメインストリームから"外し"ているのに関わらず、曲はとにかくポップでむしろど真ん中に"当て"に行っている。シティポップ戦国時代において、フレンズが存在しているこの位相自体を"神泉系"という言葉が絶妙に表現しているのだ。

 意図的に”外し”ているがポップど真ん中に"当て"ているアーティストは他にもいる。ONIGAWARAである。

ヒットチャートをねらえ! 通常盤

“愛してる"なんて僕には言えない
"会いたい"だなんて言えるわけない
でもポップミュージックで伝えよう
好きだよベイベー君だけをI love you
もう好き好きベイベー 今すぐLove with you
  ONIGAWARA ― 「ポップミュージック僕のもの」

 この曲はとてつもないキャッチーなメロディとトラックで振り付けも30を超えたおじさんがやるのはどう考えても恥ずかしい(でもめちゃくちゃかわいい)。歌詞を見ても「ポップミュージックにありがちなダサくて臭い愛の言葉もポップミュージックの中だったらささやけるぜべいべー!」というメタ的な構造になっているのだ。

やりたいことしかやりたくないってそれってなんかダサくない?
  ONIGAWARA ― 「ポップミュージック僕のもの」

 同曲の竹内サティフォ氏のラップ部分だが、これはものすごいパンチラインだ。オルタナティブへのアンチテーゼ。ポップミュージックのダサさへの大肯定。フレンズもONIGAWARAもポップミュージックのダサい部分を自ら背負っている。「俺の音楽、わかるやつだけわかればいいよ。」と言ってしまっうカウンターの音楽の方がどれだけ楽な事か。はいはい売れセンね、セルアウトねと言ってしまうのは簡単だけど、「ポップであること」自体は実は全然媚びではない。そして「ポップであること」は決して楽ではない。肯定したポップのダサさは「かっこよさ」へと昇華するのだ。

 乱立するシティポップのビルの隙間を埋めるよう存在しているのがフレンズであり、フレンズは圧倒的なポップネスと共にあなたの友達のように寄り添い、いつも語りかけてくれるバンドなのである。

 最後のまとめとして、「ポップであること」に圧倒的な誇りを持っているいきものがかりのインタビューを引用して終わりにする。

みんなが聴くものとか、大衆性があるものって何かしらダサい部分を持ってると思うんですよ。だからそれでいいはずなんです。例えば阿久悠さんとか筒美京平さんとか、当時歌謡曲と言われていたようなものって勘違いにせよ何にせよダサいって思われてる部分もあるかもしれないし。ホントはぜんぜんダサくないんだけど。でもそれがいいと思うんですよ。あるバンドを聴いて「かっこいい」って思うためにはある種の希少性がないといけなくて、それは大衆性から離れているってことだと思うんです。だからぼくらはこれでいいと思ってるんです。
  2008年12月 いきものがかりインタビュー (http://natalie.mu/music/pp/ikimonogakari

 ポップミュージックのカウンターとして様々な音楽が生まれているが、「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」という言葉あるように、ポップミュージック自体もオルタナティブミュージックのカウンターとして有り続けるのだ。