ザ・なつやすみバンド『PHANTASIA』について
いやー名盤も名盤。大名盤です。とにかく聴いてほしいという気持ちが先行しすぎて文章量が増えてしまったので記事として独立させました。
DJをやっていると、どうしても音楽聴くときに「この曲DJで使えるかな…」とか「このフレーズの元ネタなんだっけ…」とか余計なバイアスがかかってしまいがちだけれども、『PHANTASIA』は「あ、俺やっぱり単純に音楽が好きなんだ」と思い出させてくれるアルバムなのです。
・1stアルバム『TNB!』
少し話を戻して語り始めますが、なつやすみバンドはこれまでに3枚のアルバムをリリースしてきました。 2012年、なつやすみバンドが自主制作でリリースした1stアルバム『TNB!』で語っていたのは「夏の郷愁」「個のノスタルジー」。
また過ぎ去る夏に 呆然とする 涼しい風が 今日やってきました ― 「なつやすみ(終)」
誰もが夏休みの終わりを想起し、もうその夏には戻れないという事実に対する切なさに心を締め付けられるいい意味で非常にネガティブな超名盤。 はっぴいえんどが「夏なんです」で表現した「夏」という季節に対する日本人特有のノスタルジーをアルバム単位、バンド単位で表現してしまうという稀有な作品です。
- アーティスト: ザ・なつやすみバンド
- 出版社/メーカー: TNBレコード
- 発売日: 2012/06/06
- メディア: CD
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・2ndアルバム『パラード』
2013年夏には短冊CDにて『サマーゾンビ』、2014年夏には無料配信シングル『SSW』をリリースしていますが、翌年の2ndアルバム『パラード』はバンド名に反して3月に発売。
七色のアーチくぐった日に
僕の何かが変わったんだ
弾けだす気持ち
飛び散れ大砲のように
見えない敵よ 姿を見せろ! ― 「パラード」
発売時期をあえて夏から外す事で、夏にこだわった楽曲ではない様々な季節の「生きとし生ける者に対する生」を爽快に歌っていました。(バンド名から夏のイメージに縛られ、活動が制限されること(通称TUBE現象)を懸念した意図もあるのかも?)
個人的には1stアルバムの最後に収録されている「お誕生日会」から一続きのアルバムなのかなと考えています。
- アーティスト: ザ・なつやすみバンド
- 出版社/メーカー: ビクターエンタテインメント
- 発売日: 2015/03/04
- メディア: CD
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・3rdアルバム『PHANTASIA』
そして今作『PHANTASIA』の発売は夏の始まり。学生は丁度夏休みが始まる時期ですよね。『TNB!』以来の夏のアルバム。
疲れ顔の君が 少しでも笑ってくれるように わたしの旅は続く! どこまでも ― 「ハレルヤ」
私がこのアルバムを聴いてまず出てきた感想は「なんてポジティブなんだ!」という物でした。
とぼやいていた2ndアルバムから比べると、今作のポジティブさは今までに無い雰囲気。
なんでもない飴玉に ただ気持ちを詰め込んで
なんでもないふりをして 君にあげる ― Odyssey
更に
言葉通りの「あい」なら
誰も傷つかないよね
はなればなれのセンテンスが
あなたで交わるシノプシス
― ファンタジア
従来、なつやすみバンドの歌詞では情景描写や主観的な「個」の視点を描く曲が多かったかと思うんだけど、今作には「あなた」「君」などの二人称が頻出している。 また、平易だけれども非常に美しい言葉に精神世界の思想的な部分を意識的に落とし込んで表現しているのを感じる。
1stで「夏のノスタルジー」、2ndで「生」を描いたザ・なつやすみバンドは、3rdアルバム『PHANTASIA』で非常に前向きに「これから(あなたと)続いていく生」「これから(あなたと)紡いでいく夏」を歌っているのではないだろうか。
歌詞の面で多くを語ってしまったが、中川理沙、MC.sirafuの作る楽曲は言わずもがな素晴らしい。今作は全曲ポップなんだけど決してA面っぽくはなくて、なのに全曲非の付け所がなく素晴らしいという、何度繰り返し聞いても全く飽きが来ないタイプの名盤。
中川理沙の透き通った声、MC.sirafuのスチールパンの1音1音が愛おしい。そして単純にミックスが非常に良くてびっくり。リズム隊の音もものすごいクリア。
アルバムの真ん中に配置されたfeat.に嫁入りランドを招集した「GRAND MASTER MEMORIES」が良い感じにとっ散らかしてて前後のメリハリ・バランスを取ってるのがキモなのかな。 ラストに挿入された「最後の合唱コンクールなんだよ!」「コンビニ行こうぜ!」と言ったTNBメンバーの棒読み青春コントがほっこりする。
何が救いとか毎日変わってく まるでそれが魔法みたい!だなんて思える日もあるから 触れた瞬間 理屈も越えて行くなら 限られた時間でも ここにいる意味はあるでしょう? ー 「FULL SWING」
青春時代真っ只中のあなたにとっても、社会に出て働いているあなたにとっても夏はやっぱり短く、有限である。 しかし、一番大切なのは「夏を自らの手で紡いで行く」ことであるということをなつやすみバンドは教えてくれるのだ。
- アーティスト: ザ・なつやすみバンド,中川理沙
- 出版社/メーカー: ビクターエンタテインメント
- 発売日: 2016/07/20
- メディア: CD
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(ちなみになんですがこのTNBアーティスト写真でのヘアメイクは私の実妹が担当しているらしいです。)